毎日違う土地で眠りたい

「わたしたちはそういうふうにますますなって行くんじゃないかと思うのよ、ヘレン。人をたくさん知れば知るほど、代わりを見つけるのがやさしくなって、それがロンドンのような所に住んでいることの不幸なんじゃないかと思う。わたしはしまいには、どこかの場所がわたしにとって一番大事になって死ぬんじゃないかという気がする」――『ハワーズ・エンド』(E・M・フォースター/吉田健一・訳)

うどんと阿波踊りとゲリラライブの夜 ―香川・徳島旅行2泊3日 後編―

さて、旅行2日目は徳島県徳島市へと向かった。特急うずしおで徳島駅へと向かう。徳島駅に着いてからバス待ちの間に駅構内を覗くと、素敵なお土産がたくさんあり、ここで買い込みたくなる。しかし、これから市内を巡るには荷物になるので、ぐっと我慢した。 …

うどんと阿波踊りとゲリラライブの夜 ―香川・徳島旅行2泊3日 前編―

おそらく、私は現在が人生の中でももっとも自由な時期なのだが、それでも何かと不自由でたまらない。本当ならば、すべてを置いて旅に出たい。今回はそんな気持ちを再確認する旅行となった。 いつも旅は素晴らしい。私は本来ならば、ずっと旅することを望んで…

熊野から遠く離れて(後編) ―和歌山旅行3泊4日の覚書―

熊野3日目は、まず那智大社へ向かった。那智といえば、有名なのは那智の滝である。滝がご神体とはどういうことなのだろう? ぜひ一度見てみたいと思っていたので、この日も朝から楽しみであった。 新宮駅から列車で那智駅へ向かう。那智駅からさらにバスに乗…

熊野から遠く離れて(中編) ―和歌山旅行3泊4日の覚書―

熊野旅行2日目は、熊野古道を歩いて熊野本宮大社へと向かう。 私が歩くルートは熊野古道の中でももっとも易しく初心者向けと言われる「発心門王子~熊野本宮大社」のコースだ。下りがメインの約7㎞ほどのコースで、所要時間は3時間ほどらしい。 とはいえ、私…

熊野から遠く離れて(前編) ―和歌山旅行3泊4日の覚書―

私があまり人が行かないような場所へ旅行へ行く人間だと、周知の人びとに知られるようになったと思う。旅立つ前に、気を付けてね、だとか、楽しんできてね、だとか声を掛けられることも多くなった。 そう言ってもらえることはうれしい。どんなことであれ、自…

【新潟旅行3泊4日】人生で2度訪れる場所 ~その③ 佐渡編~

新潟旅行の3日目は、佐渡へ向かった。4日目は帰るのみなので、実質的にはこの日が観光最終日である。 前日、天気が崩れており船で佐渡へ渡れるか(行くことはできても帰ることはできるのか)と心配していた。しかし、目が覚めてみると青空が広がっている。晴…

【新潟旅行3泊4日】人生で2度訪れる場所 ~その② 松之山・高田編~

新潟旅行2日目は、十日町市の松之山と、上越市の高田へ向かった。 ゴールデンカムイを読む前から私が新潟へ行きたいと思っていたのは、そもそも私の好きな作家である坂口安吾が、新潟の出身だからである。1度目の新潟旅行の際、交通の便が悪い松之山に行けな…

【島原半島1泊2日】後編 坂口安吾とキリシタンの城跡の巻

島原半島2日目は、いよいよ原城(島原の乱でキリシタンたちが籠城し、幕府軍に敗北した城)跡へ向かう。 目が覚めると、昨日の冷たい雨が嘘のように天気は快晴だ。気温もかなり上がっている。昨日は長袖の服を着ていたが、もう一枚は半袖の服を持ってきてい…

【島原半島1泊2日】前編 麗しきクラシックホテルの巻

私の場合、旅には必ず目的があり、それは目的地にある。つまり、誰かと行くだとか、あるいは自分の中に目標があるだとかではない。もちろん例外はあるが、目的地がどこでもいい旅は基本的にしない。 今回は長崎の島原半島への旅だ。同じく北部九州といっても…

恐竜と禅寺とだるまちゃんの旅 ―福井旅行2泊3日その④

福井旅行最終日は、いよいよ曹洞宗大本山・永平寺へ行く。私はこのお寺の朝課に参加する予定だった。なんと、集合時間は朝の4時20分である。 それは、朝というよりも夜中といった方がいい時間だ。私は車の運転ができないので(ペーパードライバーである)、…

恐竜と禅寺とだるまちゃんの旅 ―福井旅行2泊3日その③

福井旅行2日目も、盛りだくさんな1日だった。行ったところは、一筆啓上 日本一短い手紙の館→中野重治記念文庫→越前竹人形の里→恐竜博物館である。 最初に私が向かったのは、坂井市丸岡町だ。 この土地には、日本最古とも言われる天守閣を有する丸岡城がある…

恐竜と禅寺とだるまちゃんの旅 ―福井旅行2泊3日その②

悩んだ末に降り立った今庄駅の降車客は、私の他には一人だけだった。 向かいのホームへ渡るため、階段を上っていくと「おかえりなさい」というメッセージが私を迎える。「ようこそ」ではないのだな、と思った。この駅で降りる人たちは、ここに住んでいる人が…

恐竜と禅寺とだるまちゃんの旅 ―福井旅行2泊3日その①

私は移動の多い旅行をするので、旅行中の最大の願いはとにかく雨が降らないことである。その次が暑すぎないこと、寒すぎないこと。これさえ叶えば、あとはどうにかなるとさえ言ってもいい。 北陸は天気が崩れやすい地域であるが、今回の福井旅行では3日間雨…

時間の感覚と得られる感情

カステラと猫ラーメンがおいしそう。 最近、フィクションを薦める時に「さらっと読めます!」「頭空っぽにして楽しめます」「1時間もあれば読み終わります」という言い方を多く目にするようになった気がする。逆に、「重厚な物語です」「読みごたえがありま…

同じ気持ちになることの正しさと間違い

映画『A.I』より 最近、映画をよく見ている。Amazonプライムに加入したので、その中にある映画は見放題だ。 コロナウイルスのせいで何もかも自粛中のご時世なので、同じように映画を観ている時間が増えたという人は多いのだろう。ツイッターで、以下のような…

すべての小説を社会的に読む

ペスト (新潮文庫) 作者:カミュ 発売日: 1969/10/30 メディア: ペーパーバック コロナウイルスの大流行により、世界中でカミュの『ペスト』が読まれているらしい。 私はこの作品を読んでいないのだが、あらすじを見てとても興味を引かれた。 「疫病の大流行…

創作の耐えられない軽さ

映画『エンドレス・ポエトリー』より 『エンドレス・ポエトリー』という映画を観て驚いたのは、どこへ行っても詩人が大歓迎されていたことだ。作中では様々なタイプの芸術家が登場するが、主人公が「あなたは?」と問われて「僕は詩人です!」と答えると、周…

ハッピーエンドは世界と和解すること

シェイプ・オブ・ウォーターのラストを、あなたはハッピーエンドだと思いますか? ※この記事内では、映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の結末に触れています 最近は作家や漫画家など、いわゆる個人でフィクションを作成する職業の人も、ツイッターなどのア…

富士山を探す旅 ――2泊3日静岡旅行

私は旅先でした会話とか、あるいは何気なく聞いた現地の人の会話だとかに非常にロマンを感じる人間なので、今回もそれら見聞きしたことを記録しておこうと思う。 とはいえ、静岡は都会で交通の便も良いところだったので、特におもしろいアクシデントは起こら…

一般化する前に自己と他者の違いを認識しないといけないこと

ここ最近、足しげく読書会に行っている。月一回、自分も主催者の一人である(主催者が2人いる)読書会は、2年以上続いている。 課題本があるタイプの読書会では、いろいろな発見がありとても楽しい。私は特に、人によって一つの作品でも読者としていろんな立…

アンナ・カレーニナについての雑感

『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)の読書会があるので、その前に自分の雑感をひととおりメモしておきたいと思う。おそらく、ほかの人の意見を聞いたら、私は自分の見方を反省するべきだと考えようとすると思うので。 ネタバレを含みます。 トルストイにつ…

自分の中に理性を否定する気持ちがあること

先日、以下の映画を鑑賞した。 アバウト・タイム ?愛おしい時間について? (字幕版) 発売日: 2015/04/10 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る あらすじをおおまかに説明すると、タイムトラベル能力のある主人公のラブストーリーである。しかし…

「いつ・どれくらい」という具体性を手に入れるまで  ――親との距離について

1人暮らしをして思うようになったのは、私の両親はとても料理が下手だったのだなぁということだ。 私は食べ物の好き嫌いの多い子どもだった。ナスもカボチャも豆類も嫌いだったし、大きいトマトも嫌いだったし、ホウレンソウもあまり好きではなかったし、と…

長い旅の記録(後編)  ――4泊5日新潟旅行記

佐渡島の景色はどこも美しかった。 中編で書いた小木の部分が今回の旅のハイライトだったので、あとはもう、駆け足で書いていきたいと思う。 *** 佐渡2日目は、相川地区へ向かった。ここは佐渡金山のある地域だ。 金鉱の採掘跡は想像以上のスケールで、大…

長い旅の記録(中編)  ――4泊5日新潟旅行記

直江津からフェリーで、佐渡島の小木へ。そこからさらに島の南端の方にある宿根木へ向かう。 この宿根木という地域は島のもっとも南西部にあり、交通の便がいいとは言えない地域なのだが、江戸時代の面影が残っている集落ということで、私はぜひ行ってみたか…

長い旅の記録(前編) ――4泊5日新潟旅行記

4泊5日の新潟旅行は、私の旅行の最長記録を更新した。とても楽しかった。 旅行に行って不思議なのは、結局覚えていたり印象に残っているのは、そこであった人との会話だとか、何気なく聞いた会話だとかであることだ。 私は決して話好きな方ではないし、人見…

文学、文学者を語る時、その社会面を考慮するべきか ーードナルド・キーン作品を読んで最近考えたこと

12月だったのに、美しい紅葉が見られた銀閣寺。 私は日本文学者ドナルド・キーンさんのファンで、その作品の愛読者である。つい2ヶ月前(2019年2月24日)にお亡くなりになり、最近はその作品を読み返したり、まだ読んでいない作品を読んだりしている。 キーン…

自己中心的な人間は、誰かを助けてはいけないのか ーー映画『THE GUILTY』とジッド『田園交響楽』に見る自己欺瞞との戦い

2/22公開 『THE GUILTY/ギルティ』ショート予告 - YouTube ※この記事内では、 『THE GUILTY』のネタバレはしていませんので、安心してお読みください。ただ、できる限り事前知識がない状態で観てほしい作品ではあります。 友人のSさんが映画の『THE GUILTY…

宗教はなぜ悪いイメージなのか ——S・モーム『月と六ペンス』から反論を試みる

いろんな版が出ているけど、新潮文庫の紺×ライトグリーンがモームのスタンダードなイメージ 去年、ある読書会で遠藤周作がとても好きな人とお会いして、以後何度かお話する機会があった。その方の話は大変面白く、私はとても感銘を受けた。 その人のどこに感…

地方性によって異なる「あなたと海へ行きたい」という言葉の意味 ——島田荘司作品への連想

尾道へ旅行した時の写真 何ヶ月か前に、ツイッターにて「太平洋側と日本海側では『海へ行こう』という言葉の意味が全然ちがう」というツイートを見かけて、とても面白いと思った。 さらに、冬であれば日本海側で「海へ行こう」という言葉は「心中しよう」と…