中編で書いた小木の部分が今回の旅のハイライトだったので、あとはもう、駆け足で書いていきたいと思う。
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佐渡2日目は、相川地区へ向かった。ここは佐渡金山のある地域だ。
金鉱の採掘跡は想像以上のスケールで、大迫力だった。金(ゴールド)はまさに権力そのものだということがよくわかった。でないと、危険を冒してこんなに巨大なものが運営できるわけがない。
それにしても、これまで人気のないところばかり観光してきたため、ここでの観光客のうるささには閉口してしまった。
もうひとつ金山で面白かったのは、おみやげ所である。
金塊が積み上げられたようにディスプレイされたものに、「これが本物なら…260億円」と書いてあるので、なんだろうと思ったらボックスティッシュだった。
この他にも金にかけた様々なおみやげがあり、金山のおみやげは見ているだけで楽しかった。
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しかし金山を出ると、人気がぱったりなくなった。昨日の曇天が嘘のように、この日はカッと太陽が照りつけている。私は日傘をさして山を下ったのだが、他に道路を歩いている人影は一つもなかった。
また、昼食を食べるところがない。町のメインストリートらしき通りは、どの店舗もシャッターを下ろしている。
かろうじて営業しているらしきところに入るが、中には誰もいない。すみません、と声を張ると、奥からおばあさんが出てきた。お昼やっていますか? と尋ねると、大丈夫だと言われる。
おかしかったのは、焼魚定食のお魚はなんですか、と訊くと、ちょっと待ってねと奥へ引っ込んで「アジ、今日はアジよ、こういうの」と生の魚を持ってきて見せられたことだ。それにします、アジ大好きです、と私は笑いながら言った。
料理が出てくるのを待っている間、なんと続々と客が来て、店はいっぱいになってしまった。他に入れるお店がなかったのだろう。おそらく、店のおばあさんが一番びっくりしていたのではないかと思う。
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新潟滞在最終日は、ドナルド・キーン・センター柏崎へ行った。
とても行きたかったところなのだが、電車の都合で1時間ほどしかいられない。少しでも長く見学しようと早く行って、開館時間の10時前に着いた。
ガラス張りの扉から中をのぞいて見ていると、カウンターの人が出てくる。どうしたのだろう、と思っていると、その人は扉を開けて、なんと中へ入っていいですよと言った。
「いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
願ってもないことに、私は狂喜乱舞である。受付で、
「ドナルド・キーンさんのことはご存じですか?」
と訊かれたので、しっかり「ファンです!」と答えた。
ドナルド・キーン・センターの展示はとても素晴らしかったのだが、私は時間がなかったので、豊富な映像資料のほとんどを見られなかったのが残念である。
唯一見ることができたのは、キーンさんが『源氏物語』について語っている資料だった。
キーンさんは『源氏物語』を読むことで、当時の暗く恐ろしい世相(1940年、ヒトラーの軍隊がノルウェー、デンマーク、オランダ、ベルギー、そしてフランスの半分を侵略していた)から逃避することができた、と語っていた。
その時の私のリュックには、まさに読みかけの『源氏物語』が入っていた。そして、私が『源氏物語』を読んでいるのも、そしてわざわざこうやってこのセンターを訪れ、キーンさんが話しているのを聴いているのも、同じ理由からだった。
私も、たとえ一瞬でもいいから、恐ろしい現実から目を逸らしたかったのだ。
戦争が起こっていた当時と、今の私の状況は全く比べものにならないが、それでもそう思うと私の目からは涙があふれた。
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これで、私の新潟旅行記は終わりである。
帰りの飛行機の中でも、私は号泣してしまった。いろいろな感情がせめぎ合って、感傷的な気分になってしまったのだろう。それについて詳しいことは書かないけれど、おそらく、隣の席の女の子にドン引きされていたのではないかと思う。
おしまい