毎日違う土地で眠りたい

「わたしたちはそういうふうにますますなって行くんじゃないかと思うのよ、ヘレン。人をたくさん知れば知るほど、代わりを見つけるのがやさしくなって、それがロンドンのような所に住んでいることの不幸なんじゃないかと思う。わたしはしまいには、どこかの場所がわたしにとって一番大事になって死ぬんじゃないかという気がする」――『ハワーズ・エンド』(E・M・フォースター/吉田健一・訳)

2019-01-01から1年間の記事一覧

創作の耐えられない軽さ

映画『エンドレス・ポエトリー』より 『エンドレス・ポエトリー』という映画を観て驚いたのは、どこへ行っても詩人が大歓迎されていたことだ。作中では様々なタイプの芸術家が登場するが、主人公が「あなたは?」と問われて「僕は詩人です!」と答えると、周…

ハッピーエンドは世界と和解すること

シェイプ・オブ・ウォーターのラストを、あなたはハッピーエンドだと思いますか? ※この記事内では、映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の結末に触れています 最近は作家や漫画家など、いわゆる個人でフィクションを作成する職業の人も、ツイッターなどのア…

富士山を探す旅 ――2泊3日静岡旅行

私は旅先でした会話とか、あるいは何気なく聞いた現地の人の会話だとかに非常にロマンを感じる人間なので、今回もそれら見聞きしたことを記録しておこうと思う。 とはいえ、静岡は都会で交通の便も良いところだったので、特におもしろいアクシデントは起こら…

一般化する前に自己と他者の違いを認識しないといけないこと

ここ最近、足しげく読書会に行っている。月一回、自分も主催者の一人である(主催者が2人いる)読書会は、2年以上続いている。 課題本があるタイプの読書会では、いろいろな発見がありとても楽しい。私は特に、人によって一つの作品でも読者としていろんな立…

アンナ・カレーニナについての雑感

『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)の読書会があるので、その前に自分の雑感をひととおりメモしておきたいと思う。おそらく、ほかの人の意見を聞いたら、私は自分の見方を反省するべきだと考えようとすると思うので。 ネタバレを含みます。 トルストイにつ…

自分の中に理性を否定する気持ちがあること

先日、以下の映画を鑑賞した。 アバウト・タイム ?愛おしい時間について? (字幕版) 発売日: 2015/04/10 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る あらすじをおおまかに説明すると、タイムトラベル能力のある主人公のラブストーリーである。しかし…

「いつ・どれくらい」という具体性を手に入れるまで  ――親との距離について

1人暮らしをして思うようになったのは、私の両親はとても料理が下手だったのだなぁということだ。 私は食べ物の好き嫌いの多い子どもだった。ナスもカボチャも豆類も嫌いだったし、大きいトマトも嫌いだったし、ホウレンソウもあまり好きではなかったし、と…

長い旅の記録(後編)  ――4泊5日新潟旅行記

佐渡島の景色はどこも美しかった。 中編で書いた小木の部分が今回の旅のハイライトだったので、あとはもう、駆け足で書いていきたいと思う。 *** 佐渡2日目は、相川地区へ向かった。ここは佐渡金山のある地域だ。 金鉱の採掘跡は想像以上のスケールで、大…

長い旅の記録(中編)  ――4泊5日新潟旅行記

直江津からフェリーで、佐渡島の小木へ。そこからさらに島の南端の方にある宿根木へ向かう。 この宿根木という地域は島のもっとも南西部にあり、交通の便がいいとは言えない地域なのだが、江戸時代の面影が残っている集落ということで、私はぜひ行ってみたか…

長い旅の記録(前編) ――4泊5日新潟旅行記

4泊5日の新潟旅行は、私の旅行の最長記録を更新した。とても楽しかった。 旅行に行って不思議なのは、結局覚えていたり印象に残っているのは、そこであった人との会話だとか、何気なく聞いた会話だとかであることだ。 私は決して話好きな方ではないし、人見…

文学、文学者を語る時、その社会面を考慮するべきか ーードナルド・キーン作品を読んで最近考えたこと

12月だったのに、美しい紅葉が見られた銀閣寺。 私は日本文学者ドナルド・キーンさんのファンで、その作品の愛読者である。つい2ヶ月前(2019年2月24日)にお亡くなりになり、最近はその作品を読み返したり、まだ読んでいない作品を読んだりしている。 キーン…

自己中心的な人間は、誰かを助けてはいけないのか ーー映画『THE GUILTY』とジッド『田園交響楽』に見る自己欺瞞との戦い

2/22公開 『THE GUILTY/ギルティ』ショート予告 - YouTube ※この記事内では、 『THE GUILTY』のネタバレはしていませんので、安心してお読みください。ただ、できる限り事前知識がない状態で観てほしい作品ではあります。 友人のSさんが映画の『THE GUILTY…

宗教はなぜ悪いイメージなのか ——S・モーム『月と六ペンス』から反論を試みる

いろんな版が出ているけど、新潮文庫の紺×ライトグリーンがモームのスタンダードなイメージ 去年、ある読書会で遠藤周作がとても好きな人とお会いして、以後何度かお話する機会があった。その方の話は大変面白く、私はとても感銘を受けた。 その人のどこに感…

地方性によって異なる「あなたと海へ行きたい」という言葉の意味 ——島田荘司作品への連想

尾道へ旅行した時の写真 何ヶ月か前に、ツイッターにて「太平洋側と日本海側では『海へ行こう』という言葉の意味が全然ちがう」というツイートを見かけて、とても面白いと思った。 さらに、冬であれば日本海側で「海へ行こう」という言葉は「心中しよう」と…